「捕まえてきたテナガエビを、とりあえずバケツで飼ってみたいけど大丈夫?」
「SNSでポンプなしのボトルアクアリウムでエビを飼っている人を見たけど、マネしていいの?」
「テナガエビを飼いたいけど、大げさな設備は置きたくない…」

そんな疑問を持っている方に向けて、本記事ではテナガエビをポンプなしで飼育していいのかどうか?や、ポンプなし飼育がテナガエビに与える深刻な影響、どうしてもポンプが用意できない場合の緊急処置について、詳しく解説します!
テナガエビをポンプなしで飼うのは本当に危険なのか?
正しい知識を身につけ、テナガエビの飼育で後悔しないためのポイントを押さえましょう!
記事のポイント
✔ 「テナガエビのポンプなし飼育」は不可能
✔ テナガエビは非常に多くの酸素を必要とし、水を汚しやすい
✔ ポンプなしでは「酸欠」と「水質悪化」で数日で死ぬ可能性が高い
✔ 健康に長く育てるにはエアポンプとろ過フィルターが不可欠
テナガエビをポンプなしで飼育してもいいのか?
テナガエビってどんなエビ?
テナガエビは、その名の通りハサミがついた長い腕(第二胸脚)が最大の特徴である、カワエビ科に属する淡水性のエビです。日本全国の河川中流域から下流域、湖、沼、さらには田んぼの用水路といった比較的流れの緩やかな場所に広く生息しています。
体色は生息環境によって異なり、緑褐色や茶褐色のものが一般的です。夜行性が強く、日中は岩や流木の隙間、水草の茂みといった物陰に巧みに身を隠しています。
夜になると隠れ家から出てきて、その長い腕を巧みに使い、水生昆虫、小さな魚、貝類、他の甲殻類、そして動物の死骸などを捕食する、自然界における重要な捕食者であり分解者です。その勇ましい姿と、獲物を捕らえる俊敏な動きは、飼育下での観察対象として非常に魅力的です。
テナガエビの寿命は?
テナガエビの寿命は、飼育される環境の質に大きく依存し、一般的には1年から3年程度とされています。理想的な環境下、すなわち、安定した水質、適切な水温、そしてストレス要因の少ない環境が提供されれば、その寿命を最大限に全うすることが可能です。
特に、テナガエビは水質の悪化や急変、特に溶存酸素の低下に敏感です。十分な隠れ家があり、他の個体との過度な競争がない、落ち着いた環境を用意することが長寿に繋がります。
野生下では、捕食者に狙われるリスクや、干ばつ・洪水といった環境の激変にさらされるため、飼育下の寿命よりも短くなることがほとんどです。
テナガエビの成長速度
テナガエビの成長速度は驚くほど速く、特に水温が20℃を超える暖かい季節に活発になります。テナガエビは硬い外骨格に覆われているため、成長するためには脱皮を繰り返さなければなりません。
脱皮直後の体は柔らかく、非常に無防備な状態となるため、この期間は外敵に襲われやすい最も危険な時期です。飼育下では、脱皮を安全に行えるように、十分な隠れ家を用意することが極めて重要となります。
栄養状態が良く、水温が適切であれば、数週間から1ヶ月に一度のペースで脱皮を行い、その都度ひと回りずつ体を大きくしていきます。大型の種類であれば、孵化からわずか1年足らずで15cmを超えるサイズに達することもあり、日々の観察を通じてそのダイナミックな成長過程を目の当たりにすることができます。
飼育開始から3ヶ月になるテナガエビ。
2度ほど脱皮をして少し大きくなったが、まだ2.5cmほどしかない。
鋏も余り長くはないが、これからどんどん伸びるのかな? pic.twitter.com/A0gl4beGlK— araki (@tgm_o) December 16, 2018
テナガエビの餌
テナガエビは非常に貪欲な雑食性で、口に入るものなら何でも食べるといっても過言ではありません。
飼育下においては、栄養バランスの取れたザリガニ用や大型肉食魚用の沈下性人工飼料を主食とすることが推奨されます。これに加えて、時々冷凍アカムシやイトミミズ、クリル(乾燥オキアミ)、魚の切り身(白身魚など)といった動物性の餌を与えることで、健康な成長を促進できます。
餌の与えすぎは、食べ残しによる水質悪化を招く最大の原因です。食べ残しはアンモニア発生の温床となり、テナガエビにとって猛毒となります。
給餌は1日に1回、数分で食べきれる量に留め、食べ残しが出た場合は速やかに取り除くことを徹底する必要があります。
テナガエビの値段
テナガエビの市場価格は、その入手経路、サイズ、そして種類によって大きく変動します。釣具店などで釣り餌として販売されているスジエビなどの小型のテナガエビは、数十匹単位で安価に手に入ることがあります。
一方で、観賞魚店で扱われる、傷のない立派なハサミを持つ大型の個体や、特定の産地の美しい個体は、一匹数千円の値がつくことも珍しくありません。また、食用のテナガエビとして市場に出回るものは、その重量によって価格が決定され、旬の時期には高級食材として取引されます。
テナガエビは混泳していいの?
テナガエビは極めて強い縄張り意識と攻撃性を持つため、原則として他の魚との混泳は非常に困難です。
特に、グッピーやベタのように動きが緩やかでヒレの長い魚は、格好の標的となり、夜間に襲われてしまいます。また、自分より小さな魚やエビ類(ミナミヌマエビなど)は、サイズに関わらず捕食の対象と見なされます。同種のテナガエビ同士であっても、特にオス同士は激しく争い、ハサミを失ったり、最悪の場合は共食いに至ることもあります。
もし複数飼育に挑戦する場合は、60cm以上の広々とした水槽を用意し、岩や流木、土管などで複雑なレイアウトを組み、それぞれの個体が干渉されずに隠れられる場所を数多く設けることが、争いを避けるための最低条件となります。
テナガエビはポンプなしで飼育していいのか?

明確に言うと、テナガエビをエアポンプやろ過フィルターなしで長期的に飼育することは不可能です。
テナガエビは非常に多くの酸素を消費し、同時に大量の排泄物で水を汚す生物です。ポンプは、水を循環させて水面に波を立てることで空気中の酸素を水に溶かす「エアレーション」の役割と、排泄物や食べ残しを分解するバクテリアの住処となるろ過フィルターに水を送る「ろ過」という、生命維持に不可欠な二つの重要な役割を担っています。
ポンプのない環境は、いわば息苦しくてゴミだらけの部屋に閉じ込めるようなものであり、テナガエビに多大な苦痛を与え、短期間で死に至らしめることになります。
テナガエビをポンプなしで飼育してはいけない理由
ポンプなし飼育で起こる水質悪化のリスク
ポンプとろ過フィルターがない水槽は、浄化システムが存在しないことを意味します。テナガエビのフンや餌の食べ残しからは、生体にとって非常に毒性の高いアンモニアが発生します。
通常、ポンプで循環される水はろ過フィルターを通過し、そこに定着した有益なバクテリアがアンモニアを比較的無害な物質へと分解(生物ろ過)してくれます。
しかし、ポンプなしの止水環境ではこの浄化サイクルが機能せず、有害なアンモニアが水中に蓄積し続け、テナガエビはアンモニア中毒によって致命的なダメージを受けてしまいます。
酸素不足がテナガエビに与えるダメージ
テナガエビはエラ呼吸によって水中の溶存酸素を取り込みます。ポンプによるエアレーションやフィルターからの排水は、水面を揺らし、空気と水が接する面積を増やすことで、効率的に酸素を水中に供給します。
水の動きが全くない環境では、水中の酸素はテナガエビの呼吸によって一方的に消費されるだけで、新たな供給がほとんど見込めません。
酸素不足(酸欠)に陥ったテナガエビは、苦しそうに水面近くを徘徊したり、動きが極端に鈍くなったりします。この状態が続くと、細胞が壊死し、最終的には窒息死に至ります。
餌の残りやフンの分解が追いつかない問題
ポンプのない水底では、水の動きがないため、餌の残りカスやフンがヘドロのように堆積していきます。これらの有機物を分解する際にも、実は大量の酸素が微生物によって消費されます。
つまり、水が汚れるほど、水中の貴重な酸素がさらに奪われるという負のスパイラルが発生します。ろ過フィルターがあれば、これらのゴミを物理的にこし取りつつ、フィルター内部で効率的な分解が行われますが、ポンプなしでは汚染と酸欠が同時に、そして加速度的に進行してしまうのです。
夏場の酸欠リスクは特に高い
水温と溶存酸素量の関係は反比例しており、水温が高くなるほど水に溶け込める酸素の量は少なくなります。一方で、テナガエビのような変温動物は、水温が上昇すると新陳代謝が活発化し、呼吸量が増えて酸素の消費量が増大します。
これは、夏場には「水中の酸素が元々少ない」にもかかわらず、「テナガエビが必要とする酸素量は増える」という、非常に危険な状況が生まれることを意味します。ポンプによる強制的なエアレーションは、この夏場の最も過酷な時期を乗り越えるための生命線となります。
おすすめのポンプ
テナガエビを健康に育てるには、エアーポンプの使用がほぼ必須です。
とくに初心者や小型水槽での飼育では、静音性や使いやすさを重視して選ぶのがポイントです。
まずおすすめしたいのが「GEX サイレントフォース S」。静音性に優れ、設置も簡単で、初めてのエアーポンプとして最適です。チューブやエアストーンが付属しているので、すぐに使えます。
もう一つの選択肢として「エーハイム 水中ポンプ コンパクトオン1000」も人気です。デザイン性と静音性を兼ね備えており、ゴム足が振動音を抑えてくれるため、寝室でも安心して使えます。
どの製品も2,000〜4,000円程度で購入可能です。長くテナガエビを飼うつもりなら、最初からポンプを準備しておくことをおすすめします。
外部フィルターも水質を保つのに必須なので、必ず設置するようにしましょう。
無理にポンプなしで飼うと寿命が縮む
たとえポンプなしの環境で奇跡的に生き延びたとしても、それはテナガエビが常に劣悪な環境に耐え続けている状態に他なりません。
低酸素やアンモニアが蓄積した水は、テナガエビにとって絶え間ないストレス源です。慢性的なストレスは免疫力を低下させ、些細なことで病気を発症させたり、体力を消耗させて脱皮不全を引き起こしたりします。
このような過酷な飼育は、生き物の尊厳を無視した行為であり、テナガエビが本来持つたくましい生命力と寿命を、飼い主が自ら縮めていることと同義なのです。
テナガエビのポンプなし飼育 【応急処置】
コップで水をすくって戻す「手動エアレーション」で酸素補給
釣ってきた直後など、どうしてもポンプが用意できない緊急事態においては、コップや洗面器などで飼育水をすくい、15~20cmほどの高さから静かに水面へ戻す作業を繰り返します。
これにより水面が波立ち、空気が水中に巻き込まれることで、一時的に酸素を補給できます。
この方法は非常に手間がかかり、効果も限定的ですが、1時間に数分でも行うことで、酸欠で死んでしまうまでの時間を少しでも引き延ばすことができます。あくまでポンプを手に入れるまでの、必死の延命措置と心得てください。
冷却ファンや保冷剤で水温上昇を防ぐ
特に夏場の高水温は酸欠を加速させます。緊急時には、水槽の縁に取り付けられる冷却ファンを水面に向けて作動させ、気化熱によって水温の上昇を抑制します。
ファンがない場合は、凍らせたペットボトルや、ビニール袋に密閉した保冷剤を水槽に浮かべる方法も有効です。ただし、この方法では水温が急激に下がりすぎる危険性があります。
テナガエビに温度ショックを与えないよう、こまめに水温計を確認しながら、ゆっくりと水温を下げるよう細心の注意を払ってください。
水草を使って酸素供給を補助する方法と注意点
光合成を行う水草は、日中の光が当たる時間帯に限り、酸素を供給してくれます。しかし、テナガエビはハサミで水草を切断したり、食べてしまったりするため、アヌビアス・ナナやミクロソリウムといった、葉が硬くて丈夫な種類を選ぶ必要があります。
ここで最も重要な注意点は、水草も生物であり、夜間は呼吸によって酸素を消費するということです。
ポンプがなく水の動きがない水槽で水草の量が多すぎると、夜間に水中の酸素が水草とテナガエビによって奪い合いになり、かえって酸欠のリスクを高める諸刃の剣となり得ます。
水換え頻度を増やして水質を維持する
ポンプによる浄化が期待できない以上、蓄積していく有害物質を物理的に排出する唯一の方法は水換えです。この緊急事態においては、通常よりもはるかに高い頻度での水換えが求められます。
可能であれば毎日、少なくとも2日に1回は、全体の4分の1から3分の1程度の水を交換し、アンモニア濃度の上昇を抑制します。交換用の水は必ずカルキ抜きを行い、元の飼育水と水温を厳密に合わせることで、テナガエビへの負担を最小限に抑えます。
餌の量を減らして汚れを抑える
水の汚染源を断つことが、水質維持のための最も効果的な応急処置です。ポンプが手に入るまでの間は、給餌を完全にストップしてください。
健康なテナガエビであれば、数日間から1週間程度絶食しても、生命に別状はありません。餌を与えないことで、新たなフンによるアンモニアの発生を抑え、水質悪化のスピードを大幅に遅らせることができます。
かわいそうに思えるかもしれませんが、今は水質を維持して命を繋ぐことが最優先です。
一時的に広めの容器で飼育密度を下げる工夫
もし手元により大きな容器(清掃済みの衣装ケースやプラスチック製のコンテナなど)があれば、そちらにテナガエビを移すことで、状況を改善できる可能性があります。
全体の水量が増えれば、それだけ有害物質の濃度が上がりにくくなり、溶存酸素の絶対量も増えるため、時間的な猶予が生まれます。
複数匹いる場合は、別々の容器に隔離することで、共食いのリスクを減らし、一匹あたりが利用できる水量を最大化できます。これもまた、ポンプを準備するまでの時間を稼ぐための重要な工夫です。
テナガエビをポンプなしで飼育していいのか? まとめ
テナガエビの飼育に関する問い、「ポンプなしで飼育していいのか?」に対する答えは、断じて「いいえ」です。エアポンプは、単なる飼育用品ではなく、テナガエビの呼吸と排泄を支える生命維持装置そのものです。
ポンプなしでの飼育は、常に酸欠とアンモニア中毒の危険に晒す行為であり、生き物を飼うという責任を放棄しているに等しいと言えます。本稿で紹介した応急処置は、万が一の事態における、ほんの一時しのぎの手段に過ぎません。テナガエビの力強く、興味深い生態を末永く観察し、その生命を尊重するためには、飼育を開始する前に、必ずポンプを含めた適切な飼育環境を完璧に整えることが、飼い主としての最低限の義務です。






コメント